永年勤続表彰は、長く企業に貢献してきた従業員に対する感謝と労いを表す重要な制度です。
しかし、その際の報奨金や記念品については、金額や品物によって税務上や社会保険料の面での取り扱いが異なりますので、注意する必要があります。
本記事では、総務・給与・経理担当者の方々に向けて、永年勤続表彰に関する課税や社会保険料の取扱いについて、最新の情報を踏まえて実務で使える形で解説します。
この記事で分かること
- 支給形態別の課税・非課税の判断基準
- 社会保険料の対象・対象外の要件
- 実務での注意点とチェックポイント
永年勤続表彰と税金(所得税・住民税)
現金や商品券で支給する場合
現金や商品券で支給する場合は、金額の多寡に関わらず全額が給与所得として課税対象になります。
具体例
- 勤続20年で現金10万円 → 10万円全額が課税対象
- 勤続30年でJCBギフトカード5万円 → 5万円全額が課税対象
この取扱いは金額の多寡に関わらず適用されます。給与として課税される場合は、所得税だけでなく住民税も同様に課税対象となります。
記念品や旅行・観劇招待などで支給する場合
記念品や旅行・観劇招待などで支給する場合は、以下の3つの要件をすべて満たせば給与として課税されません。
非課税となる3要件
- 勤続年数や地位に照らして社会的に相当な金額であること
- 社会通念上、お祝いとして妥当な範囲内
- 勤続年数がおおむね10年以上の人を対象としていること
- 長期勤続への表彰という趣旨
- 同じ人を2回以上表彰する場合には、前回からおおむね5年以上の間隔があること
- 頻繁すぎる表彰は給与の代替とみなされる
具体例
- 勤続20年で時計(3万円相当) → 非課税
- 勤続30年で旅行券(5万円相当、要件満たす) → 非課税
注意:要件を満たさない場合
これらの要件を満たさない場合や、記念品の金額の多少にかかわらず、従業員が自由に品物を選択できる場合は、その品物の価額を給与等として課税されます。これは実質的に現金と同等と見なされるためです。
旅行券には例外的に課税されない方法がある
旅行券は他の商品券と同様に、実質的に金銭を支給したとみなされ、給与等として課税されるのが原則です。
ただし、一定の要件を満たし、実質的に金銭を支給したことと同様と認められない場合には、非課税の扱いになります。
旅行券が非課税となる4要件
旅行券に関しては、下記の要件に適合する場合は課税されません。
- 旅行の実施は、旅行券の支給後1年以内であること
- 旅行の範囲は、支給した旅行券の額からみて相当なもの(海外旅行を含む)
- 所定の報告書を提出すること(旅行実施者の所属・氏名・旅行日・旅行先・支払額等)
- 使用しなかった旅行券は会社に返還すること
(所基通36-21、昭60直法6-4)
実務ポイント 上記要件を満たしても、現金を支給(のちに清算も含む)した場合は課税対象となります。
記念品の選択肢と課税
カタログギフトなど従業員が自由に記念品を選択できる形式の場合は、要件を満たす記念品であっても課税対象となります。
この点は実務上見落としがちなので注意が必要です。従業員に選択の自由を与えると、実質的に現金や商品券と同等とみなされるためです。
具体例
- 勤続20年で会社指定の時計(3万円相当) → 非課税(要件満たす場合)
- 勤続20年でカタログギフト(3万円相当) → 課税対象
永年勤続表彰金と社会保険料・労働保険
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
用語解説
- 報酬等:毎月の給与として社会保険料の計算対象となるもの
- 賞与:年3回以下の臨時的な支給で社会保険料の計算対象となるもの
社会保険においては、企業が従業員に労働の対償として支払うものは、除外規定がない限り、原則として報酬や賞与として社会保険料の対象となります。
しかし、2023年6月に日本年金機構が改正した事例集によると、永年勤続表彰金は「内容に基づき判断を行う必要があるが、恩恵的に支給されるものとして原則として”報酬等”に該当しない」と提言されています。
📝 社会保険料の対象外となる3要件
- 表彰の目的が企業の福利厚生施策または長期勤続の奨励策として実施するものであること
- リフレッシュ休暇が付与される場合はより福利厚生色が強い
- 勤続年数のみを要件に一律支給されること
- 業績連動等ではなく、勤続年数という客観的基準
- 社会通念上お祝い金の範囲を超えず、表彰の間隔が概ね5年以上であること
- 頻度と金額の両面で妥当性が必要
具体例
- 勤続20年で一律10万円(5年間隔) → 対象外の可能性大
- 勤続年数+業績で金額変動 → 要件を満たさない可能性
これらの要件を一つでも満たさない場合は、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断することとされています。判断がつかない場合は、社会保険労務士か年金事務所に確認してください。
勤続5年ごとの支給と社会保険料
永年勤続表彰金の表彰金額が社会通念上お祝い金の範囲内で、目的や基準が福利厚生・長期勤続奨励であれば、「勤続5年ごと」に支給する場合でも社会保険料の対象外とされます。
ただし、支給額が高額で社会通念上お祝い金の範囲を超える場合や、表彰の名目であっても実質的に労働の対価とみなされる場合は、社会保険料の対象となることがあるため注意が必要です。
注意点
- 支給額が高額で社会通念上お祝い金の範囲を超える場合
- 表彰の名目であっても実質的に労働の対価とみなされる場合 → 社会保険料の対象となることがあるため注意が必要
労働保険(労災保険・雇用保険)
労働保険においては、年功慰労金や勤続褒賞金、退職金などは、就業規則・労働協約等の定めがあるとないとを問わず、賃金に含まれないとされています。
永年勤続表彰金も同様と判断できるので、労働保険料の対象とする必要はありません。
この取扱いは所得税や社会保険と異なり、支給形態(現金・記念品など)や要件に関わらず、永年勤続表彰金は一般的に労働保険料の計算対象外となります。
永年勤続表彰金支給時の実務上のポイント
記録の保持と文書化
要件を満たしていることを明らかにするため、そして要件を満たさない表彰をしないためにも、永年勤続表彰のルールを規程として文書化しておくことをお勧めします。これにより、税務調査や社会保険調査の際にも適切に対応できます。
文書化すべき項目チェックリスト
- 表彰の目的(福利厚生・長期勤続奨励など)
- 支給要件(勤続年数など)
- 支給金額または記念品の内容
- 表彰の間隔
- 課税・非課税、社会保険料対象・対象外の判断記録
支給実績や内容ごとに、課税・非課税、社会保険料対象・対象外の判断記録を残しておくことで、後日の確認や調査対応がスムーズになります。
会計処理
永年勤続表彰で支給した際の会計処理は、課税対象外であれば福利厚生費、課税対象であれば給与として処理するのが妥当です。
処理区分
- 課税対象外 → 福利厚生費で処理
- 課税対象 → 給与として処理
仕訳例
- (課税対象外の場合)
福利厚生費 50,000円 / 現金 50,000円 - (課税対象の場合)
給与 50,000円 / 現金 50,000円
申告と源泉徴収
給与として課税される場合は、通常の給与と同様に源泉徴収を行い、年末調整や確定申告の対象となります。非課税となる記念品等の場合は、源泉徴収票への記載は不要です。
また、社会保険の対象となる場合は、「被保険者賞与支払届」を年金事務所に提出する必要があります。
本人負担額も発生しますので、直後の給与等で忘れずに控除してください。
給与として課税される場合
- 源泉徴収:通常の給与と同様に実施
- 年末調整:対象となる
- 確定申告:必要に応じて対象
非課税となる記念品等の場合
- 源泉徴収票への記載:不要
社会保険の手続き
- 対象となる場合:「被保険者賞与支払届」を年金事務所に提出
※直後の給与等で控除を忘れずに。
最新の実務動向
2023年6月の厚生労働省Q&A改正以降の変化
「勤続年数のみを要件とし、表彰の間隔が5年以上」であれば、現金支給でも社会保険料対象外とされるケースが増えています。これは、旧来の取扱いよりも柔軟な解釈が示されたためです。
個別判断が必要なケース
- 表彰の間隔が5年未満
- 業績連動型の場合
特に「業績連動型」の表彰金は、実質的に労働の対価と見なされやすいため、社会保険料の対象となる可能性が高くなります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 勤続10年未満でも記念品なら非課税になりますか?
A: いいえ。記念品であっても、勤続年数が10年未満の場合は所得税・住民税の課税対象となります。
Q2: カタログギフトを1つの商品に限定すれば非課税になりますか?
A: はい。会社が指定により従業員に選択の余地がなく、他の要件も満たしていれば非課税となります。
Q3: 現金と記念品を両方支給する場合はどうなりますか?
A: 現金部分は全額課税対象、記念品部分は要件を満たせば非課税となります。それぞれ別々に判定します。
Q4: 社会保険料対象外でも所得税は課税されますか?
A: はい。所得税と社会保険料は判定基準が異なるため、それぞれ別々に判定する必要があります。
まとめ
永年勤続表彰における課税・社会保険料の取扱いは以下のようにまとめられます。
🔍 実務チェックポイント
支給前のチェック項目
- 表彰制度が規程として文書化されているか
- 支給要件が明確に定められているか
- 社会通念上妥当な金額・内容か
- 前回表彰から適切な間隔があるか
支給時のチェック項目
- 課税・非課税の判定は適切か
- 社会保険料対象・対象外の判定は適切か
- 源泉徴収の要否は適切か
- 必要な届出書類の準備はできているか
支給後のチェック項目
- 給与システムへの反映は適切か
- 源泉徴収票への記載は適切か
- 社会保険の届出は適切に提出されたか
- 記録の保存は適切に行われているか
🎯 重要なポイント
- 現金や商品券での支給:所得税・住民税の課税対象、社会保険料については要件による
- 記念品等での支給(要件を満たす場合):所得税・住民税の非課税、社会保険料の対象外
- 自由選択の記念品:所得税・住民税の課税対象、社会保険料は個別判断
- 勤続5年ごとの支給:要件を満たせば社会保険料対象外の可能性あり
- 労働保険:一般的に対象外
適切な運用のためには、要件を満たす形での表彰制度設計が重要です。特に、永年勤続表彰金の取扱いは社会保険、労働保険、所得税の各観点から異なる要件が存在するため、法令や規則を遵守し、従業員との公平な取扱いを確保することが重要です。
最新の法令や規則は変更される可能性があるため、実務においては常に最新情報を確認し、不明点は税務署や年金事務所、社会保険労務士等の専門家に相談することをお勧めします。
永年勤続表彰制度は従業員のモチベーション向上や定着促進に効果的な制度ですが、適切な税務・社会保険の取扱いを行うことで、企業と従業員双方にとって最適な制度となります。
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