永年勤続表彰は、長く企業に貢献してきた従業員に対する感謝と労いを表す重要な制度です。
しかし、その際の報奨金や記念品には、税務上や社会保険料の面で様々な取扱いがあります。
本記事では、総務・給与・経理担当者の方々に向けて、永年勤続表彰に関する課税や社会保険料の取扱いについて、最新の情報を踏まえて解説します。
永年勤続表彰と税金(所得税・住民税)
現金や商品券で支給する場合
現金や商品券で支給する場合は、全額が給与所得として課税対象になります。
この取扱いは金額の多寡に関わらず適用されます。給与として課税される場合は、所得税だけでなく住民税も同様に課税対象となります。
記念品や旅行・観劇招待などで支給する場合
記念品や旅行・観劇招待などで支給する場合は、一定の要件をすべて満たせば給与として課税されません。
以下の3つの要件を全て満たす必要があります。
- 勤続年数や地位に照らして社会的に相当な金額であること
- 勤続年数がおおむね10年以上の人を対象としていること
- 同じ人を2回以上表彰する場合には、前回からおおむね5年以上の間隔があること
これらの要件を満たさない場合や、記念品の金額の多少にかかわらず、従業員が自由に品物を選択できる場合は、その品物の価額を給与等として課税されます。これは実質的に現金と同等と見なされるためです。
記念品の選択肢と課税
カタログギフトなど従業員が自由に記念品を選択できる形式の場合は、要件を満たす記念品であっても課税対象となります。
この点は実務上見落としがちなので注意が必要です。従業員に選択の自由を与えると、実質的に現金や商品券と同等とみなされるためです。
住民税の取扱い
住民税については、所得税の課税対象となる場合は同様に課税され、所得税で非課税となる場合は住民税も非課税となります。つまり、上記の要件を満たした記念品等については住民税も課税されません。
永年勤続表彰金と社会保険料
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
社会保険においては、企業が従業員に労働の対償として支払うものは、除外規定がない限り、原則として報酬や賞与として社会保険料の対象となります。
しかし、2023年6月に日本年金機構が改正した事例集によると、永年勤続表彰金は「内容に基づき判断を行う必要があるが、恩恵的に支給されるものとして原則として”報酬等”に該当しない」と提言されています。
社会保険料の対象外となるための具体的な要件は以下の通りです:
- 表彰の目的が企業の福利厚生施策または長期勤続の奨励策として実施するものであること(支給に併せてリフレッシュ休暇が付与されるような場合は、より福利厚生としての側面が強いと判断される)
- 勤続年数のみを要件に一律支給されること
- 社会通念上お祝い金の範囲を超えず、表彰の間隔が概ね5年以上であること
これらの要件を一つでも満たさない場合は、直ちに「報酬等」と判断するのではなく、事業所に対し永年勤続表彰金の性質について十分確認した上で、総合的に判断することとされています。
勤続5年ごとの支給と社会保険料
永年勤続表彰金の表彰金額が社会通念上お祝い金の範囲内で、目的や基準が福利厚生・長期勤続奨励であれば、「勤続5年ごと」に支給する場合でも社会保険料の対象外とされます。ただし、支給額が高額で社会通念上お祝い金の範囲を超える場合や、表彰の名目であっても実質的に労働の対価とみなされる場合は、社会保険料の対象となることがあるため注意が必要です。
労働保険(労災保険・雇用保険)
労働保険においては、年功慰労金や勤続褒賞金、退職金などは、就業規則・労働協約等の定めがあるとないとを問わず、賃金に含まれないとされています。永年勤続表彰金も同様と判断できるので、労働保険料の対象とする必要はないでしょう。
この取扱いは所得税や社会保険と異なり、支給形態(現金・記念品など)や要件に関わらず、永年勤続表彰金は一般的に労働保険料の計算対象外となります。
永年勤続表彰金支給時の実務上のポイント
記録の保持と文書化
要件を満たしていることを明らかにするため、そして要件を満たさない表彰をしないためにも、永年勤続表彰のルールを規程として文書化しておくことをお勧めします。これにより、税務調査や社会保険調査の際にも適切に対応できます。
具体的には以下の点を文書化しておくとよいでしょう。
- 表彰の目的(福利厚生・長期勤続奨励など)
- 支給要件(勤続年数など)
- 支給金額または記念品の内容
- 表彰の間隔
また、支給実績や内容ごとに、課税・非課税、社会保険料対象・対象外の判断記録を残しておくことで、後日の確認や調査対応がスムーズになります。
会計処理
永年勤続表彰で支給した際の会計処理は、課税対象外であれば福利厚生費、課税対象であれば給与として処理するのが妥当です。
申告と源泉徴収
給与として課税される場合は、通常の給与と同様に源泉徴収を行い、年末調整や確定申告の対象となります。非課税となる記念品等の場合は、源泉徴収票への記載は不要です。
また、社会保険の対象となる場合は、「被保険者賞与支払届」を年金事務所に提出する必要があります。
本人負担額も発生しますので、直後の給与等で忘れずに控除してください。
最新の実務動向
2023年6月の厚生労働省Q&A改正以降、「勤続年数のみを要件とし、表彰の間隔が5年以上」であれば、現金支給でも社会保険料対象外とされるケースが増えています。これは、旧来の取扱いよりも柔軟な解釈が示されたためです。
ただし、「表彰の間隔が5年未満」や「業績連動型」などの場合は、依然として個別判断が必要です。特に「業績連動型」の表彰金は、実質的に労働の対価と見なされやすいため、社会保険料の対象となる可能性が高くなります。
まとめ
永年勤続表彰における課税・社会保険料の取扱いは以下のようにまとめられます。
- 現金や商品券での支給:所得税・住民税の課税対象、社会保険料については要件による
- 記念品等での支給(要件を満たす場合):所得税・住民税の非課税、社会保険料の対象外
- 自由選択の記念品:所得税・住民税の課税対象、社会保険料は個別判断
- 勤続5年ごとの支給:要件を満たせば社会保険料対象外の可能性あり
- 労働保険:一般的に対象外
適切な運用のためには、要件を満たす形での表彰制度設計が重要です。特に、永年勤続表彰金の取扱いは社会保険、労働保険、所得税の各観点から異なる要件が存在するため、法令や規則を遵守し、従業員との公平な取扱いを確保することが重要です。
最新の法令や規則は変更される可能性があるため、実務においては常に最新情報を確認し、不明点は税務署や年金事務所、社会保険労務士等の専門家に相談することをお勧めします。
永年勤続表彰制度は従業員のモチベーション向上や定着促進に効果的な制度ですが、適切な税務・社会保険の取扱いを行うことで、企業と従業員双方にとって最適な制度となります。
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