【2026年版】定時決定(算定基礎届)でやりがちなミス大全~社保担当者が毎年迷うレアケース完全解説

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7月は、社会保険担当者にとって特別な月のひとつです。

そうです、『社会保険の定時決定(算定基礎届)』です。

6月中旬に年金事務所から届く封筒を開けた瞬間から、算定基礎届のシーズンが始まります。
「今年もこの時期が来たか」とため息をつきながら、賃金台帳を見ながら、4・5・6月の給与を一人ずつ確認していく——。この作業、慣れているようで、毎年どこかで引っ掛かりませんか?

「4〜6月の平均を取って標準報酬月額を出すだけ」。給与ソフトを使っていれば、計算自体は自動でやってくれる。

でも、ソフトが自動で判定できるのは「原則通りのケース」だけです。

実際にやってみると、そう単純にはいかないケースが必ず出てきます。

  • 「この人、4月に育休から復帰したけど、どう扱えばいい?」
  • 「昇給の決定が遅れたから4月分も5月給与に含まれているけど、これって引くんだっけ?」
  • 「うちの会社、4〜6月が繁忙期で残業代がすごく多いけど、このまま算定していいの?」

困るのは、こうしたレアケースほどマニュアルに載っていないことです。いつも使っているマニュアルには「原則」しか書かれていない。書かれていても軽く触れてあるだけ。そして、こういうケースが毎年同じ人に起きるとは限らないのも困る点です。去年は問題なかった人が今年は該当する、ということが普通に起こります。

この記事は、このような「あのとき困った」「これで合っているか不安だった」という経験を持つ担当者のために書きました。

「支払基礎日数が17日未満だとどうなるの?」「短時間就労者と短時間労働者って違うの?」——実務でよく混乱するこのテーマを、雇用区分ごとに整理します。

実務で本当に迷う例外・レアケース・判断の盲点に絞って解説します。

初心者の方だけでなく、ベテランの方の参考にもなれば幸いです。

目次

まずは基本『定時決定とは』

定時決定(算定基礎届)とは

毎年4〜6月の報酬をもとに標準報酬月額を算定し、健康保険・厚生年金保険の社会保険料を改定するための届出です。
毎年7月1日〜10日までに年金事務所へ提出し、決定した標準報酬月額はその年の9月(10月納付分)から翌年8月までの1年間、保険料計算に使われます。

従業員の毎月の保険料負担はもちろん、傷病手当金・出産手当金・将来の年金額にまで影響する、影響範囲の広い手続きです。だからこそ、例外ケースの判断ミスが後々大きな問題につながります。

さて、基礎はこのくらいで。
ここからは、実務担当者を悩ませるポイントをひとつずつ整理して解説していきます。

❶ 支払基礎日数の疑問まとめ

定時決定は、4月から6月の給与の平均により算定しますが、欠勤等により賃金が大幅に減っている場合は、その月を除外して算定しなくてはなりません。

平均額を計算するときに、どの月の給与を使うかを、『支払基礎日数』で判定します。

支払基礎日数ってなんだ

賃金を支払うための基礎となる日数のことです。

給与が月給制の方は暦の日数が支払基礎日数となり、日給制や時給制の方は出勤日数が支払基礎日数となる認識で問題ないでしょう。

少しややこしいのが、『日給月給制』の方です。

日給月給制とは、欠勤や遅刻をしたときに給与が引かれる月給制のことです。欠勤しても給与が変わらない月給制のことを完全月給制と言ったりもします。

日給月給制の場合でも、欠勤がなければ支払基礎日数は「暦日」となります。

問題となるのは欠勤があった場合です。
欠勤した日数分を、支払基礎日数から引くのですが、日数の引き方に2つのパターンがあります。

どちらのパターンになるかは、欠勤分の給与を、どのような計算で控除するのかで判断します。

  • 出勤日数を分母として控除 ⇒ 出勤日数が支払基礎日数 
  • 暦の日数を分母として控除 ⇒ 暦の日数 ー 欠勤日

一見ややこしいですが、月給は暦日、日給と時給は出勤日数、月給の人が欠勤してたら要注意、と認識しておけば問題ないでしょう。

算定対象となる支払基礎日数は雇用形態によって異なる

さて、もっとややこしいのが、雇用形態によって算定対象となる支払基礎日数が異なる点です。

算定対象月となるための、支払基礎日数には3つのパターンがあります。

  • 17日以上
  • 15日以上、17日未満(短時間就労者の例外)
  • 11日以上(短時間労働者の場合)

17日が原則、15日以上17日未満は短時間就労者のみが使える例外、11日以上は短時間労働者の場合のみ、となります。

この3つのパターンのうち、どれが適用されるかは、その人の雇用形態によって異なります。

正社員、契約社員、パートタイム、アルバイトなど、会社によって言い方は異なりますが、会社でどう呼んでいるかはあまり関係がありません。

雇用契約における勤務時間によって、次の3つのパターンに分類します。

区分①:フルタイム

一般的に、正社員がここに当てはまります。

契約社員や、パートタイムといった契約であっても、勤務時間が正社員と同じか、それより多い場合はこの区分になります。

この区分はとてもシンプルで、支払基礎日数『17日以上』が算定対象月となります。

支払基礎日数取り扱い
17日以上算定対象月として平均計算に含める
17日未満その月は除外。残りの月で平均を計算する
3ヶ月すべてが17日未満従前の標準報酬月額をそのまま据え置き

区分②:短時間就労者

短時間就労者とは、週の労働時間が正社員の3/4以上で、かつ正社員よりも短い者です。

パートタイムやアルバイトだけでなく、会社内で正社員と呼ばれていても、勤務時間が短く設定されている者については、この区分になります。

育児や介護のための時短勤務中の者については、時短中の勤務時間ではなく、元の勤務時間で判断します。

この区分も、基本となる支払基礎日数は『17日以上』となります。

ただし、例外規定があります。

4月~6月がすべて17日未満であった場合、『15日以上、17日未満』の月が算定対象となります。

支払基礎日数取り扱い
17日以上の月があるその月のみで平均を計算(月給者と同じ)
17日以上の月がない、かつ15日以上17日未満の月があるその15日以上の月だけで平均を計算する
3ヶ月すべてが15日未満従前の標準報酬月額をそのまま据え置き

【注意】「15日ルール」は、短時間就労者にだけ適用されます。

15日ルールの適用対象は、日本年金機構が「短時間就労者」と定義する区分です。
この「短時間就労者」とは、パートタイマーやアルバイトという名称に限らず、「正規社員より短時間の労働条件で勤務する者」全般を指します(契約社員・準社員・嘱託社員等も名称を問わず含まれます)。
したがって、正規社員と同じ労働時間・日数で勤務している従業員は、この「短時間就労者」には該当しません。

区分➂:短時間労働者(適用拡大で社会保険に加入した者)

短時間労働者とは、主に週20時間以上、正社員の3/4未満の労働者のことです。

適用拡大によって、近年新たに社会保険に加入できるようになった人のことです。

短時間労働者は、基準が『11日以上』に引き下げられます。
17日以上かどうかを気にする必要はありません。

支払基礎日数取り扱い
11日以上の月があるその月で平均を計算
3ヶ月すべてが11日未満従前の標準報酬月額をそのまま据え置き

『短時間就労者』と『短時間労働者』。紛らわしい・・・。

3つの区分をまとめると

① フルタイム② 短時間就労者区分③ 短時間労働者
目安となる労働時間正社員と同等週30時間以上、かつ正社員より短い週20時間以上30時間未満
典型例正社員・フルタイム契約社員パート・アルバイト・時短勤務者以外の嘱託社員等適用拡大で加入したパート・アルバイト
算定対象の基礎日数17日17日11日
15日以上17日未満の例外対象外対象

❷ 金額訂正や支払時期のズレの修正

平均給与を計算するための、給与については、実際にその月に支払った額ではなく、『その月が支払い対象となっている額』です。

ややこしい言い方ですいません。

要するに、過去の給与の不足額を4月~6月の給与に上乗せしている場合は、その額を引かなくてはなりませんし、半年分の通勤定期代を1月に支払っている場合は、4月~6月の分を足さなくてはならない、ということです。

遡及(さかのぼり)支払いがあった場合

昇給が3月に決まったものの計算が間に合わず、4月給与に「3月分の不足額」を足して支払った、という場合があります。

4月の支給額には3月分の差額が含まれているため、そのまま計算すると4月だけ異常に高くなり、平均賃金も上がってしまいます。この場合、4月の支給額から「3月分の不足額」を差し引いた額で算定しなければなりません。遡及分を含む月には要注意です。

過去の給与計算の誤りが発覚し、4月~6月の給与で清算した場合も、その影響を取り除かなくてはなりません。
過去の不足分を払ったなら、その分を引く、過去の過払い分を控除したなら、その分を足す必要があります。

通勤手当をまとめ払いしている場合

通勤手当を3ヶ月分や6ヶ月分でまとめて支給している場合、支給された月に全額乗せるのではなく、各月に1ヶ月分ずつ按分して算定基礎に含めるのが原則です。

4〜6月以外(例:1月と7月)に支給されている場合でも、算定基礎届には「1ヶ月分相当額」を算入することを忘れないでください。

❸ 「現物給与」の評価とタイミングの罠

現物給与(社宅・食事)の価額改定

社宅(家賃補助ではなく会社名義の物件)や食事を従業員に提供している場合、厚生労働省が定める「現物給与価額」に換算して給与に上乗せする必要があります。

この基準価額は4月に改定されることが多いため、古い価額のまま4〜6月分を計算してしまうミスが頻発します。必ず最新の現物給与価額表を確認してから算定してください。

❹ 保険者算定(年間平均)の適用

これも見落とされやすく、かつ従業員・会社双方に大きなメリットをもたらす制度です。

制度の概要と創設背景

平成23年4月から、業務の性質上、季節的に報酬が大幅に変動することによって通常の算定方法が「著しく不当」となる場合に、4〜6月の平均ではなく「前年7月〜当年6月」の12ヶ月平均で標準報酬月額を決定できる特例が設けられました。これを保険者算定(年間平均による定時決定)と呼びます。

具体的には、新生活シーズンの引越し業、春の観光業など、4〜6月だけ繁忙期で残業が突出する業種が主な対象です。こうした業種では4〜6月の給与が1年の中で突出して高くなるため、それだけで社会保険料が決まると、残りの月の実態と大きく乖離してしまいます。

適用要件(3つすべてを満たすこと)

① 2等級以上の差があること

「4〜6月の平均で算出した標準報酬月額」と「前年7月〜当年6月の12ヶ月平均で算出した標準報酬月額」の間に、2等級以上の差があること。

② 差が例年発生するものであること

上記の差が業務の性質上、例年発生することが見込まれること。一時的なトラブルによる残業増は不可です。

③ 従業員本人の同意があること

被保険者(従業員)本人が保険者算定の申立に同意していること。

前提条件:年間平均の計算に用いるいずれの月も、支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であることが必要です。

手続きの流れ

STEP1:事業主が申立書(様式1)を作成する

「年間報酬の平均で算定することの申立書(様式1)」に、年間平均で算定すべき理由を記載します。

STEP2:同意等申立資料(様式2)を用意する

前年7月〜当年6月の各月の報酬額、4〜6月平均と年間平均の比較、2等級以上の差の確認などを記入します。

STEP3:従業員の署名(同意)を取得する

「同意等申立資料」に従業員本人が署名します。同意がない場合は、その従業員については通常の算定方法で決定されます。

STEP4:算定基礎届の備考欄に「年間平均」と記載して提出する

通常の算定基礎届に加え、STEP1・STEP2の書類を添付して提出します。

STEP5:必要に応じて添付書類を提出する

年金事務所から、賃金台帳・タイムカード・出勤簿などの提出を求められることがあります(例年発生することの確認が必要な場合など)。

注意:被保険者が健康保険組合に加入している場合、申立書は日本年金機構と健康保険組合の両方に提出が必要です。同意書は原本を事業主が保管し、写しを各保険者へ提出する取り扱いで問題ありません。

年間平均の計算対象から除外される月

以下の月は、12ヶ月平均の計算対象から除外されます。

  • 支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)未満の月
  • 低額の休職給を受けた月
  • ストライキによる賃金カットがあった月
  • 一時帰休に伴う休業手当等を受けた月
  • 月の途中入社による入社月

また、前年7月〜当年3月の間に少なくとも1ヶ月以上、基準を満たす月が確保されている必要があります。

デメリット:標準報酬月額が下がると給付額も下がる

保険者算定を適用すると、標準報酬月額が通常より低くなります。社会保険料の負担が軽くなるメリットがある一方で、標準報酬月額は傷病手当金・出産手当金などの短期給付や将来の年金額の計算基礎にもなるため、これらの給付額も低下するデメリットがあります。

従業員への同意取得の際には、この点を必ず説明しましょう。同意書は単なる形式ではなく、従業員が不利益を理解した上で署名するための重要な手続きです。

❺ 月変(随時改定)との優先関係

随時改定(月変)が優先される

4月〜6月に基本給や役職手当などの固定的賃金が変動した場合、その後3ヶ月の給与平均によっては「随時改定(月変)」の対象となり、標準報酬月額が改定されます。

随時改定は定時決定よりも優先されます。そのため、7〜9月に月変の対象となる従業員については、算定基礎届の取り扱いが通常と異なります。

7月月変の人と、8・9月月変の予定者で、対応が変わる

まず、月変予定者の算定基礎届の扱いを整理しておきましょう。

7月月変の対象者は、算定基礎届に金額を記入しません。報酬月額欄は空欄のまま、備考欄に「月変予定」を記載して提出します。月変届が提出されるため、定時決定は行われません。

8・9月月変の予定者は、金額を記入するかどうかが任意です。ここが実務上の判断のしどころです。

  • 金額を書かなかった場合(省略の申し出): 実際には月変の対象とならなかったとき、算定基礎届に金額がないため、改めて年金事務所への確認と再提出が必要になる可能性があります。
  • 金額を書いた場合(通常提出): 実際に月変の対象となったとき、後から提出した月変届が優先されます。算定基礎届の内容は上書きされるため、二度手間にはなりますが、手続き上の問題はありません。

ここで一つ重要な点があります。8・9月に月変対象となるかどうかは、7月・8月の給与が確定するまでわかりません。算定基礎届の提出期限である7月10日の時点では、まだその判断ができないのです。

結論として、8・9月月変が見込まれる場合でも、通常通り金額を記入して算定基礎届を提出しておくことをおすすめします。

後から月変になれば月変届が優先され、月変にならなければそのまま定時決定として処理されます。どちらに転んでも対応できる、リスクの少ない選択です。

対応まとめ

月変の時期算定基礎届の取り扱い
7月月変の対象者報酬月額欄は空欄。備考欄の「3.月額変更予定」に〇を付して提出。電子申請の場合は対象者を除いて作成する
8・9月月変の予定者原則として通常通り金額を記入して提出。省略したい場合は報酬月額欄を空欄にし、備考欄の「3.月額変更予定」に〇を付して提出できる(事業主の申し出が必要)

【注意】「7月月変の人は提出不要」は不正確

よく「7月月変の人は提出不要」と説明されますが、正確には「報酬月額の記入が不要」であり、書類自体は備考欄に「月変予定」を記載して提出します。「提出しなくていい」と誤解すると、年金事務所への届出が漏れるリスクがあるため注意してください。

4〜5月に昇給・降給があった従業員がいる場合は、算定基礎届の作業に入る前に、月変対象の可能性がある人を先にリストアップしておくと、スケジュール管理がスムーズになります。

まとめ:算定基礎届は「例外の把握」が最重要

算定基礎届の作業そのものは、給与ソフトがあれば多くの部分は自動処理されます。でも今回解説してきたような例外ケースは、ソフトには判断できません。担当者が「この人は通常と違うかもしれない」と気づいて、手を止めて確認する。その一手間が、後の保険料の誤りや、従業員への不利益を防ぎます。

作業を始める前に、以下のチェックリストを活用してください。

作業前の確認チェックリスト

  • 短時間就労者・短時間労働者の区分は正しく判定できているか
  • 日給月給制の従業員の支払基礎日数は、欠勤控除の計算方法に応じて正しく算出できているか
  • 4〜6月に休職・育休・欠勤が多かった従業員はいないか
  • 遡及支払い(昇給差額・計算誤りの清算)が含まれている月はないか
  • 通勤手当をまとめ払いしている従業員の按分は正しく算入されているか
  • 現物給与(社宅・食事)がある場合、今年4月改定後の最新価額を使っているか
  • 4〜6月が突出して繁忙な従業員・業種で、保険者算定(年間平均)の適用を検討すべきケースはないか
  • 4〜5月に固定的賃金が変動した従業員がおり、7〜9月の月変対象になる可能性はないか

迷ったときは、一人で抱え込まずに

「このケース、どう処理すればいいんだろう」と迷ったときは、すぐに年金事務所や社会保険労務士に相談してください。また、算定基礎届の時期には年金事務所が説明会を開催していることも多いので、積極的に参加しましょう。

社会保険の手続きは、従業員の生活と老後を支える土台です。毎年の作業だからといって、「わかったつもり」にならず、慎重に確認しましょう。

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