カスハラ対策の義務化を調べたら、客側には何も起きないと知った話

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ある日の朝礼のあと、社長から「ニュースでやってたカスハラの法律、うちも対応しないといけないやつ?」と聞かれた。

なんとなく聞いたことはあったけど、詳しく調べたことはなかったので、その場では「確認します」としか言えなかった。こういうのはちょっと悔しい。

ひとり総務として、こういう「これってどういうこと?」という質問にその場で答えられないのは、わりとよくある。担当業務の広さから、すべての情報をキャッチできていない。社会保険や税制の変更はともかく、カスハラ問題なんて普段は頭にない。「何でもかんでも聞いてくるな」と心の中でぼやきつつも、さっと答えられたらカッコよかったのにな、と思う。

令和8年(2026年)10月に改正労働施策総合推進法が施行されて、カスタマーハラスメント対策が義務化される、という記事はすぐに見つかった。そしてそれを読んで疑問が浮かぶ。

これでカスハラが防げるのか?

会社にはいろいろ義務を課しているが、肝心のハラスメント行為をするカスタマー側に対する規制はなさそうだ。もちろん罰則もない。

社長の質問の意図とは違ってくるが、こういうのは気になると調べたくなる。自分なりに調べたこと、考えたことをここに記録しておきます。

あくまで一総務員の私見なので、正確な情報については厚生労働省のサイトを確認して下さい。

目次

まず、義務化される内容を整理してみた

調べてみると、対象は「従業員を1人でも雇用するすべての事業者」とのことで、うちのような数十人規模の会社も当然対象になる。

義務化される内容を自分なりにまとめると、おおよそ次の4つだった。

  • カスハラを許容しないという方針を社内で策定し、周知すること
  • 従業員が相談できる窓口を設置し、周知すること
  • 発生後の事実確認と、被害を受けた人へのケア体制を整えること
  • 悪質な事案への対応方針を含めた研修を実施すること

対応を怠ると労働局からの指導・勧告があり、それでも改善されなければ企業名が公表されるとのこと。

実際にどのような段階を踏んで公表まで行くのかまではわからないが、ちゃんとやらなければ会社にとって不利益はある。罰金とかはないけど、甘く見るなよって感じだろうか。

調べていて目にとまった数字

要点を整理したあと、念のため背景のデータも見ておこうと思って調べた記事の中に、厚生労働省の実態調査の数字があった。過去3年間にカスハラの相談があったと答えた企業は約3割近くにのぼり、前回調査より大きく増加していたという。しかも他のハラスメントが減少傾向にある中、カスハラだけが増加傾向にあるというデータだった。

正直、この数字を見て「そうなんだろうな」と納得した。

セクハラやパワハラはすっかり企業に定着し、問題意識はかなり強くなっている。根絶されたとは思わないが、状況は改善しているように思える。一方で、店頭で怒鳴り声をあげる人が減った様子はない。店員に土下座させてそれを撮影した、なんてニュースもあった。部下に向けられないストレスが、客に向いているのではないか、なんてことを想像してしまう。

顧客側には、特に何も起きないという問題

ただ、調べる中で、いちばん引っかかったのはここから先の話だった。カスハラ事案が発覚したあと、加害者である顧客側はどうなるのか、という部分だ。

記事によれば、カスハラ被害を受けた人の行動として最も多いのは「上司に相談した」という回答で、「何もしなかった」を上回っていたという。

被害者と加害者が同じ会社の中にいるセクハラ、パワハラと違って、第三者が加害者であるカスハラは上司に相談しやすいというのは想像に難くない。

それをさらに強化しようというのだから、相談件数は増えるだろう。被害者のケアも拡充されれば、労働環境の改善にも繋がるとは思う。

ここまでは、良さそうな話に見える。

ただ、加害者である顧客には、よほどの犯罪行為(暴行・脅迫など)に該当しない限り、特に何の不利益も生じない。これは記事を読んで初めてはっきり認識した点だった。

パワハラやセクハラなら、社内の人間が相手なので懲戒など何らかの形で会社が対応できる余地がある。でもカスハラの相手は社外の顧客で、今回の義務化が課しているのはあくまで「会社側の体制整備」であって、顧客側に直接の不利益が生じる仕組みにはなっていない。

東京都が先行して施行した条例も、顧客側に対しては努力義務にとどまっていて、強制力という意味では同じ限界を抱えているらしい。理由としては、「正当なクレーム」との線引きの難しさや、表現行為への規制という観点から、加害者側を直接縛る制度設計は簡単ではない、という事情があるようだった。

被害者のダメージが軽減されるだけで、カスハラを行った加害者には何も起きない。

これでカスハラ問題が解決に向かうとは思えなかった。

おわりに

結局、社長には義務化の内容だけを報告した。

その他のわたしが抱いた懸念点などについては、質問されたら答えるつもりで準備していたが、聞かれることはなかった。

今の会社は長い付き合いのある取引先とのやり取りがほとんどで、一般の消費者とのやり取りはほとんどないため、カスハラが社内で問題視されてはいない。社長もそれほど興味がなかったのだろうと思う。

社長からの一言がきっかけで調べ始めたカスハラ対策だったが、調べるほどに「義務化はゴールではなく出発点なんだな」という感覚が強くなった。ひとり総務としては、まず最低限の体制(方針・窓口・研修)を整える仕事が発生しそうだが、それほどの手間ではないだろう。

カスハラ問題の本質的な解決については、業務とはあまり関係がないが、考えなければならない社会の課題だと思う。

※本記事は筆者個人の理解・記録であり、制度の正確な要件や最新情報については厚生労働省等の公式情報をご確認ください。

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